季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

空蝉(うつせみ)

早くも7月。まだ早いかも知れないが空蝉を取り上げる。
空蝉は蝉のぬけ殻のこと。もともと「現し身」「現せ身」で、生身の人間をさしたが、のちに、「空せ身」空しいこの身、魂のぬけ殻という反対の意味に転じた。これが、「空蝉」。蝉のぬけ殻のイメージと重なった。「現せ身」と「空せ身」が混同していくあたり、とても日本的なものを感じる。
若いころ、信州居酒屋に行ったことがある。もちろん信州の料理がメニューに並ぶ。そのなかに蝉のから揚げがあって頼んでみた。6個ほど小皿にのって出てきた。何のことはない蝉の殻のようで、一度歯を立てるとくしゃっとなくなってしまう。品のない話だが、空蝉からこんな体験を思いだす。
もしやと思って、空蝉は漢方薬にならないのかと調べてみた。漢方薬かどうか以前に、ある地域では蝉の殻を食べる習慣があって、アブラゼミは脂っこかったのでそう呼ばれるようになったとか。地域によってさまざまな言い伝えがあって、タンスに入れておくと着物が増えるとか、受験のお守り、とか。
さて、漢方では蝉退(せんたい)と呼ばれて、体を鎮める生薬だったという。
拾ひたる空蝉指にすがりつく 橋本多佳子