季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

田螺鳴く(たにしなく)

今年の桜の開花は早くすでに満開。散歩に行った公園で見知った顔の面々に出会い、新型コロナで制限されているにもかかわらず、冷酒で夜桜を楽しむ会へと発展した。一人は絵描きで、この季節は田螺鳴く、が季語だったと先方から季語の話題になった。私としては得意にならざるを得ない。「目借り」を披露した。亀鳴くも。
どうして鳴くはずもないものが鳴くと季語では言うのだろう、と盛り上がった。ミミズ鳴く、もあるし、蓑虫鳴くも季語にある。もっとも、蓑虫鳴くは秋の季語だが。
たぶん他のものが鳴いたのに、鳴くはずもなさそうなものが鳴いた、とあえて俳味をもたせたのだろう。蛙とか虫が鳴いたのに、鳴くはずもない田螺を引き合いに出す。
農家出身の私としては、田螺は身近な存在だ。田植えの済んだ田んぼに、田螺の歩いた後が残る。バケツ一杯もとって、薪でつぶして鶏のエサにする。そういえばザリガニもそうして鶏のエサにした。こういうエサをあげることによって、殻のしっかりした卵が産まれる。
田螺鳴いて日高くなりし山田かな 前田正治