季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

春待つ(はるまつ)

待春ともいう。この季節になってくると、春が待ち遠しくなる。 ところが、雪の便りも聞かれる。関東周辺はむしろこれから雪が降ったりする。だから一層、春待つという季語で俳句を作ってみたくなる。 たらの木も春待つものゝ一つかな 高野素十

柊挿す(ひいらぎさす)

古くは宮中の門に節分の夜、柊を挿し、なよしの頭を挿した。なよしは出世魚で、その名吉の意をとったようだ。江戸時代から庶民の習俗となって、鰯の頭を使うところもある。 子どもの頃、我が家でも柊を挿した。玄関の脇の戸袋はまだよいとして、裏庭の戸にも…

冬薔薇(ふゆそうび)

冬に咲く薔薇を言う。寒薔薇、冬ばら、ともいう。 シーズンの薔薇に比べて一輪のみ小さく咲く。薔薇の華やかさとは、そのおもむきもまた違う。 一輪咲くのに、ずいぶんと日数がかかる。時には莟のまま咲かずに枯れてしまうこともある。莟が咲くためにそんな…

寒椿(かんつばき)

冬椿ともいう。ほんらい春の花だが、日当たりのいいところで冬に咲くものをいう。常盤木のなかに一点の赤を点じて、凛としたところがある。 観音の肩暖むる寒椿 橋閒石

日脚伸ぶ(ひあしのぶ)

1月も下旬になると日脚が伸びてくるのがはっきり分かる。 子どもの頃、朝食を食べて、一家で縁側に集まる。なんということもなかったが、楽しかった。冬場、それほど追われるような仕事もなかったのだろう。母が、白髪を抜いてくれと頼む。まだ白髪が珍しい…

寒梅(かんばい)

寒中に咲く梅のこと。冬に咲く梅のことも言う。「冬の梅」などとも言う。 子どもの頃、庭の梅で、早く咲く木があった。寒梅なのか、あるいは日の当たる場所だったので、普通の梅が早く咲いたのか不明。 寒梅や空の青さにすきとほり 星野立子

冴ゆる(さゆる)

寒いとか冷えるという意味だが、さらに凛とした寒さのこと。 月冴ゆる、鐘冴ゆる、風冴ゆると使う。凍てつく寒さが感じられる。 満月の冴えてみちびく家路あり 飯田龍太

悴む(かじかむ)

寒気のために手足が凍えて自由が利かなくなること。口のあたりが悴んでものがうまく言えないこともある。近年はそんなに悴むこともないが、テレビでみる雪おろしなど悴むことも多いのではないかと思う。 悴かめる児の手に白き息をかけ 山田 栄美代

寒卵(かんたまご)

寒中の鶏卵のこと。栄養価が高いと言われている。しかし、どうなのだろう。とくに寒中の鶏卵だけが栄養価が高いとは思えないのだが。 昧噌汁におとすいやしさ寒卵 草間時彦

寒の雨(かんのあめ)

寒中に降る雨のこと。冬の雨という季語もあるが、寒の雨の方が一段と寒さが感じられる。 寒に入って9日目に降る雨を寒九の雨と言って豊年の兆しと言われている。 寒の雨枯れたるものの華やげり 右城暮石

凍る(こおる)

寒さで水が凍ることを言うが、凍るように冷たいこともいう。凍月、頬凍る、凍て土など。 凍つる夜の信号機のみ点滅す 西山すみ子

楪(ゆずりは)

春に新しい芽が出てから古い葉が落ちるところから楪と呼ばれている。家が代々続いていくことを願って、縁起物とされている。正月の飾りに使われる。 楪を箸置きにして祝ひ膳 中村苑子

薮入(やぶいり)

1月16日、奉公人が休みをもらって親元に帰ったり外出して遊ぶ風習のこと。この日のほかに7月16日があり7月のは後の薮入という。地方によっては他家へ嫁いだ子女が里帰りすることも薮入と呼んだ。奉公人や嫁にとっては待ち遠しい日であった。 藪入や山が大き…

麦の芽(むぎのめ)

11月12月に蒔いた麦が芽を出す。 麦の芽をつつみてひかりやはらかし 長谷川素逝

二十日正月(はつかしょうがつ)

正月20日のこと。この日で正月行事はだいたい終わりとなる。関西では正月用の塩鰤など魚の骨を野菜と炊き合わせるので骨正月ともいわれる。地方でいろいろな言い方があるようだ。30日で正月を終了する三十日正月をやるところもある。正月行事を終了すること…

十六むさし(じゅうろくむさし)

正月の遊びとして季語にもなっているが、やったことはない。十六武蔵なのか十六六指なのか。ボードゲームのようだ。だれか復活させてくれないものだろうか。 幼きと遊ぶ十六むさしかな 高濱虚子

小豆粥(あずきがゆ)

正月気分も過ぎるとかゆを食べる。7日は七草粥を食べる。15日に食べるのが小豆粥。これらに餅を入れて作るのが粥柱。小豆粥を食べるとその年の邪気を祓い疫病を祓うと言われている。 3が日にごちそうを食べて、胃が弱っているだろうから、という配慮だろうか…

寒造り(かんづくり)

温度管理がしやすい冬場は酒造りの季節である。以前、杜氏さんに聞いたことがあるが、麹の発酵を抑えられる冬場に酒を造ることによって、いい酒ができると。のびのびと発酵させずに、発酵したいところを苛め抜くといい酒になるのだとか。 寒いから雑菌が繁殖…

手毬(てまり)

最近の手毬はついて遊ぶよりは飾の要素が強い。そういえば毬つきをしたのはいつだろう。 子どもの頃は里芋の茎を丸めて毬を作ったものだ。毬で思いだすのは、小学校にラグビーのボールが一個あった。最近ひょんなことから友人とその話になった。家の小学校に…

竹馬(たけうま)

正月は遊びの時間でもあった。コマや凧揚げ、カルタやすごろく、そして竹馬も。 子どもの頃、正月でもないのに兄弟で花札などをやっていると、野良から帰った親に「正月でもないのに」と叱られたものである。 前にも書いたが、叔父が竹職人で竹籠などを作っ…

書初(かきぞめ)

笑初とか泣初、箒初、掃初、読初、織初、縫初など、正月になって初めて行うことが季語になっている。初笑のように言い方が変わる場合もある。改まって行うことに意味があったようだ。 掃除などは元旦にはしないことになっていたので2日に行われる。書初めは…

獅子舞(ししまい)

子どもの頃、リヤカーにいろいろなもの(楽器など)を積んで獅子舞の一団がやってきたものだ。正月ではなく暮れにきたこともあったと思う。庭先でひとしきり獅子舞をして、人の頭を噛む。ちいさい頃、それがほんとうに怖かった。幸い私は次男坊なので、強制…

雑煮(ぞうに)

三が日毎朝神仏に供えて、それをわかち食べたのが雑煮だと言われている。地域や家によってさまざまな雑煮があり、一人一人、記憶にある雑煮のイメージも違うのだろう。 子どもの頃、我が家の方では、三が日は男が早く起きて作る。父と子どもたち。火を起こし…

鳥総松(とぶさまつ)

門松を取り上げた際、私の田舎の方では門松に使った松の枝を門松の穴に入れておくと紹介したが、それが季語になっていて、鳥総松というのだそうだ。1月7日に門松を撤去するが松の枝をその後に残しておく。1月15日でそれも片づけてしまうが、私の記憶ではもっ…

飾臼(かざりうす)

餅を搗く臼はめでたいものだった。ないがしろにはしない。普段、使わない時も裏返しにして土間に置く。正月には注連縄を飾る。 下の句、そういう臼に鶏が飛び乗るというのだから、鶏は放し飼いなのだろう。完全放し飼いではなく夕方につかまえて鶏小屋に入れ…

太箸(ふとばし・たいばし)

太箸は正月に使う。雑煮箸ともいう。大晦日に、家族の名前を書いて神棚に供える。箸の中央が膨らんだ、はらみ箸は子孫繁栄を願うもの。俵箸ともいって五穀豊穣を願う。 家族そろって新年を祝う風習。気が付いてみたら太箸を買ってなくて、コンビニの弁当を買…

去年今年(こぞことし)

否応なく新年を迎える。ひねくれて言えば、日にちは連続体であって、とくに新しい日を迎えたという実感はない。私だけの感慨かと思っていたが、下のような句を見つけて、おもわずニンマリしてしまった。 なまけものぶらさがり見る去年今年 有馬朗人