季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

白魚(しらうお)

紛らわしいが、本来は素魚(しろうお)、白魚と違うようだ。からだが透明で、光が素通りするから素魚。この時期に産卵のために川に上ってくる。それを食す。代表的な食べ方は踊り食い。酢醤油をかけて、跳ねるのにまかせ口に入れ、のどごしを味わう。小料理…

霞(かすみ)

霞と霧の違いがよく話題にのぼる。春にたなびくのは霞。霧は秋にたちのぼる。霞はぼんやりとしているが、霧は深い。わざわざ春霞(はるがすみ)などともいう。さらに、夜にたなびくのは霞といわず朧(おぼろ)という。日本語は難しい。遠浅に小貝ひらふや夕霞…

蓬餅(よもぎもち)

この時期、蓬の柔らかい葉を入れて餅を搗く。我が家は矢切の近く。『男はつらいよ』の寅さんが昼寝をするのがこの、江戸川の土手。ここの蓬で名物の草団子を作る。昔はそうだったが、いまはどうなのだろう。子どもの頃は、蓬といえば冬の枯れたものを揉んで…

海苔(のり)

東京の地下鉄の駅に日比谷がある。この「ひび」、海苔を採るための小枝などを言うと聞いたことがある。徐々に、小枝などではなく、棕櫚縄や竹割を使うようになって、今では合成繊維の網が使われている。駅名として残るほど海苔は暮らしに密着していた。子ど…

鶯(うぐいす)

今朝、玄関先の竹やぶで鶯が鳴いていた。思わず吹き出しそうになってしまうくらい、下手な鳴き方だ。あの、きちんとしたホーホケキョと鳴くようになるにはどのような経緯をたどるのだろう。恋の相手に学ぶのだろうか。鴬や耳かたむけて六地蔵 片渕清子

春の雪(はるのゆき)

順調に春を迎えるとは限らない。とはいえ、今年の冬は暖かかった。暖かいというより、地球温暖化の影響とすら感じる。桜の開花が3月中旬だとの報道がある。花が咲いたり、雪が降ったり。友人が「桜隠し」という季語があると教えてくれた。咲いた桜を雪が隠す…

春の土(はるのつち)

玄関をあけて庭に出ると空気が違う。柔らかい。柔らかい空気に匂いがある。それは待っている土だ。日の暖かさで芽吹きが一斉に始まる。だから、この匂いは、芽吹きの匂いなのかもしれない。春の土兎も吾子も跳ね上手 市ヶ谷洋子

烏貝(からすがい)

子どもの頃、川で烏貝をよくとった。大ぶりの黒い貝で、食用ではないと言われるが、私の田舎ではよく食べた。たしかに蜆などに比べると大味で、とくに美味しいとは感じられない。山の中にある沼ではもっと多くいた。泥との相性がいいのだろう。川に釣りに行…

余寒(よかん)

よかん、よさむともいう。残寒などとも。まだまだ寒さが残る様子。確実に新芽は膨らみつつあるのだが。一人居に先の世からの余寒あり 三井絹枝

冴え返る(さえかえる)

順調に春に向かうわけではない。思わず一進一退という言葉を使いたくなるが、季節にそういう言葉は似合わない気もする。が、春先なのに寒さがぶり返す。冴返るこの身このまま心また 下村梅子

梅見(うめみ)

派手さでは桜にかなわないだろうが、春を待つ予兆としての梅はまた別の良さがある。春の予兆で心浮き立つのに、階級や年齢は関係がない。が、年寄りほど春の訪れはありがたいのではないか。 訪れ、もともとは音づれだったようだ。平安の昔、衣の擦れる音で人…

残雪(ざんせつ)

残り雪、などとも呼ばれる。雪そのものが珍しい地方に住んでいるので、残雪に特別な思いはないが、春の兆しのあるなかでの雪に思いを馳せる人もいるのだろう。山の頂にのこる雪の形や多さで、農事を占うようなこともあった。ちょうど農作業が始まる時期でも…

落椿(おちつばき)

春の木と書いて椿。日本でつくられた漢字だという。椿の語源は艶葉木(つやばき)など幾つかあるというが、確かに艶のある厚い葉である。昨年、小さな椿の木を買ってきた。秋には台風で大雨が降った。池のようになった水のなかでも枯れなかった。強い木だな…

蜆汁(しじみじる)

酒を飲んだ後で蜆汁を出されると、これはありがたいと感謝する。寒い冬にはとりわけありがたい。「ありがたければ文句を言うな」と言われそうだが、それにしても小さい蜆である。子どもの頃に食べた蜆は大きかった。じゅうぶん実を味わえた。男というのは心…

日脚伸ぶ(ひあしのぶ)

昨日、障子の妙を書いた。障子と外界の間には縁側がある。縁側を話題にしようと思うが季語ではないから、話題にしにくい。そこで、縁側から逆に句を探したらこの句に出会った。日ごとに昼の時間が伸びて、日差しが暖かい。そういう時、縁側は格別だ。昨日の…

春障子(はるしょうじ)

壁のようにではなく、外界と内側を優しく仕切る障子。光の入り具合で気候や季節を感じることができる。小鳥の影が映ったりさえずりも聞こえてくる。この、情報への接し方は不思議だ。面影のような。そういえば、現実に存在していない記憶のなかに見出せるよ…

沈丁花(じんちょうげ)

この香りは、と思わずあたりを見まわしてしまう。香りの高い花だ。低木なので、香りはすれど、という感じだ。とはいえ、今のところその香りには出会っていない。季語にあるから、もうすぐなのではないか、と心待ちにしている。名前の由来は香木の沈香からき…

野焼(のやき)

私の田舎では広範囲に野焼をする習慣はなかった。というより、よく整理された田園地帯だったので、焼くところがなかった。むしろ早めに田をすき返して土に日を当てることで病原菌や害虫を防いでいたのだと思う。とはいえ、野焼の季節は、春の訪れを予感させ…

バレンタインデー(ばれんたいんでー)

季語にバレンタインデーがある。この日は女の人が男の人に愛を伝えてもいい日だという。その贈り物としてチョコレートが使われる。あきらかに日本型風習で、どこかのメーカーの陰謀めいている。ご丁寧に、その後にはホワイトデーなるものもある。義理チョコ…

恋猫(こいねこ)

植物も鳥も春の訪れに敏感だが、猫のオスメスも。先日テレビで見たが、カエルも沼で卵を産んでいた。春になってしまうよりも、その兆しを感じることが嬉しい。乳のみ子は恋猫程になきにけり 政岡子規

うぐひす餅(うぐいす餅)

うぐいすは春告げ鳥とも呼ばれる。うぐいすの羽の色もいいが、それに似せたうぐいす餅。もうすぐ春だな、という思いがある。残念ながら、うぐいすの声をまだ聞いていないが、それを待つようなお菓子である。うぐひす餅それでと話促せり 高澤良一

梅観(うめみ)

桜には、思わず気を許してしまう華やかさがあるが、梅はどうも。私は水戸の出身なので、偕楽園にも何度か足を運んだ。梅の花に華やかさは感じられない。しかし、まだ春になる前から花をつける梅には、脱帽する。そして、桜と違って実をつける。梅干しが好き…

菜の花(なのはな)

私の住む千葉県は、房総半島の方でずいぶん早くに菜の花が咲く。12月には咲いている。とはいえ、菜の花の明るさはじゅうぶん春のものである。花を見るのもいいが、食用にしてもいい。胡麻和えが好きだ。お浸しもいい。「一面の菜の花」を繰り返して1篇の詩と…

麦踏(むぎふみ)

子どもの頃、冬に麦踏をしたことを覚えている。カニが横歩きをしているように歩く。母と一緒に、長い畝を、遠ざかったり近づいたり。面白いのは後ろ手をして麦を踏むこと。小学の高学年になったころから、耕運機で歩くのが麦踏となった。耕運機は我が家には…

蕗味噌(ふきみそ)

昔は味噌の料理がいつも身近にあった。学校から帰ると、ばあさんが、冷や飯に味噌をつけただけのおにぎりをつくってくれたものだ。それでもうまい。蕗味噌は、焼き味噌や練り味噌に、細かく刻んだ蕗の薹 (とう) を入れたなめ味噌。そう、蕗の薹は香りづけで…

猫柳(ねこやなぎ)

まだ2月に入ったばかりだが、季語では春を感じさせるものがいっぱいあって、気持ちが明るくなる。クリスマスや正月頃は、日は短いし寒いしで気持ちも塞ぎがちになる。だからお祭りのような行事も多いんだろうと思う。さて、昨日は季節を利用した企業の宣伝に…

豆打ち(まめうち)

季節をどこで感じるか。さびしいことにスーパーのレジで買ったものを袋につめながら、「今年を占う豆まきを家族の皆さんと一緒に」とアナウンスを聞いている。べつのスーパーでは「今日は楽しいひな祭り」の歌が流れている。いずれも売らんかなという意図が…

蠟梅(ろうばい)

黄色い可憐な花を咲かせる蠟梅。真冬の花として貴重だが、梅の種類ではないようだ。香り高く、花を咲かせるときにだけ話題になるが、実もなるらしい。そして実には毒があるという。臘梅やたましひに色ありとせば 鷲谷七菜子