季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

明日葉(あしたば)

近くの農家から一時期畑を借りていた時があった。畑の周囲に柿の木があり、茗荷もあった。この時には明日葉もあって自由にどうぞ、ということだった。明日葉は今日摘んでも明日にはまた葉が伸びているところからつけられている。だから、惜しげもなく摘んで…

夏蜜柑(なつみかん)

夏蜜柑はいつが食べ頃なのだろう。夏蜜柑というくらいだから夏の食べ物なのだろうか。しかし、冬の前にはもう実をつけているのだから、それでは長すぎる気もする。この季節、スーパーには並んでいるが、スーパーでは季節はあてにならない。ミカンとは異なり…

釈迦の鼻糞(しゃかのはなくそ)

釈迦入滅の日といわれる旧暦2月15日は新暦の3月15日ごろ。涅槃会が各寺で執り行われる。涅槃変ともいわれる。釈迦が変相したとの意味。ところで、釈迦の鼻糞という季語がある。ひどい季語だが、どういうことなのだろう。正月の餅花をとっておいて、この日に…

種芋(たねいも)

芽の部分を切らないようにジャガイモを二つに切って、灰をつけて畝に置いていく。芋の側に立ってつくった句というのもいい(下の句)。ジャガイモはジャガタラ芋。芋の来た由来を名にしているわけだが、馬鈴薯ともいう。たしかに、馬についた鈴のような形を…

山椒の芽(さんしょのめ)

山椒の実がこぼれて、そこここに山椒が芽を出す。そして、幹の太った山椒も芽吹く。お隣から頂き物をして、思いついたように山椒の芽を摘んで、お隣に持っていく。これでありがたがられるならお安いもの。山椒の芽は掌にのせて、パンと叩く。そうすると香り…

梨の花(なしのはな)

梨の花が咲いていた。春を待ち望んでいたのにいまや春も盛り。私は市川と松戸の境あたりに住んでいるが、ここは20世紀梨の原産地になったところ。以前、鳥取に行ったとき、20世紀梨博物館があって驚いた。しかし、いまや20世紀梨にも品種が多くあるようだ。…

蕗(ふき)

草冠に路。蕗は日本原産の野菜だという。子どもの頃は身近な野菜だった。茎の皮をむく。アイヌの伝承にあるコロボックリは「蕗の葉の下の人」という意味だとか。下の句、糸ひくとあるが、すじが残った蕗のことだろう。この表現で蕗の独特の香りが立ってくる…

春の宵(はるのよい)

最近の天気予報では「宵のうち」という言葉を聞かなくなった。調べてみたら2007年まで予報用語として使われていた。どうして使われなくなったか。どうも宵の意味が深夜にまで及ぶようになったかららしい。本来は日没から1時間ほど。もちろん季節によって異な…

田螺鳴く(たにしなく)

今年の桜の開花は早くすでに満開。散歩に行った公園で見知った顔の面々に出会い、新型コロナで制限されているにもかかわらず、冷酒で夜桜を楽しむ会へと発展した。一人は絵描きで、この季節は田螺鳴く、が季語だったと先方から季語の話題になった。私として…

苜蓿(もくしゅく・うまごやし)

クローバと呼んだり、つめ草と呼んだり、うまごやしと呼んだり。実際には違いがよく分からない。つめ草の語源としては、江戸時代にガラスを輸入した際に、割れないようにあいだに詰められたものだと聞いたことがある。それが野生化した。クローバに放つ子豚…

蛙の目借時(かわずのめかりどき)

先に書いた「亀鳴く」もそうだが、不思議な季語がある。この蛙の目借時もそう。もともとは妻刈り、いわば求愛行動の意味だろう。それが転じて、目借り。春の眠気を催す頃を言う。蛙が人の目を借りていくから眠くなる、という俗説。どうなのだろう、蛙の目の…

蝶(ちょう)

この季節、七十二侯では「菜虫蝶と化す」。昔の人は蝶を夢虫と呼んでいた。この呼び名、荘子の説話「胡蝶の夢」に由来する。蝶になる夢を見たが本当の私は蝶で、今人間になっている夢を見ているだけではないか、と。蝶の夢は幻想を誘う。古今集に「散りぬれ…

亀鳴く(かめなく)

春になると亀の雄が雌を慕って鳴くという。しかし実際にはそんなことはないから、でたらめの季語である。近くの江戸川の土手を散歩していたら、テトラポットに亀が登って甲羅干しをしていた。冬にはみられなかった。数匹がおり、こんな状況で使う季語だろう…

古草(ふるくさ)

昨年の枯れた草のことかと思っていたが、枯れずに残っている草のことだという。「古草にほつこりたまる日差しかな」という句もあった。人の目は柔らかな緑についいってしまうが、日差しは差別しない。古草を渡り歩きの天道虫 高澤良一

桜貝(さくらがい)

とくに桜貝という貝はなくて、小さな二枚貝の総称なのだという。イメージは美しい女性の爪、か。二枚貝とはいえ、海岸の砂に交じって見つけるのはいつも片割れだけ。美しさとともに、その片割れだけというのがさびしい。桜貝おけば机上に風生まれ 今瀬剛一

山桜(やまざくら)

桜の語源は「さ」が穀物。「くら」は場所。山の穀物の神さまが降りてきて、麓に花を咲かせる。と、もうすぐ農事が始まる。私の姉の名前は早苗。穀物の「さ」の苗だ。早乙女なども穀物に関係している。子どもの頃、山桜が咲きだすと友人と山に行ったものだ。…

蝌蚪(かと)

蝌蚪は中国語で蛙の子(おたまじゃくし)のこと。昔は使われず近代の作者に好んで使われるようになったという。日だまりの水たまりに、真っ黒に固まって泳いでいる。冬眠から覚めたばかりで、そこがどのくらいの水たまりなのか分からないのは仕方がないとし…

草の芽(くさのめ)

近くの江戸川の土手を歩く。まあ、まあ、小さな芽がまるで華道のケンザンのように出ている。ぶらぶらと散歩するというよりも、大地に見入ってしまう。腰を降ろして、スマホを取り出して写真にとる。柔らかな緑が目にやさしい。ことごとく合掌のさま名草の芽 …

春雨(はるさめ)

この季節の雨は気温に左右される。肌寒い雨が多いが、妙にぬくい雨もある。雨だって天の采配。よき客もよき春雨も天より来 吉良比呂武

ぺんぺん草(ぺんぺんくさ)

白い十字の花をつける。葉が三味線の撥のような形をしているのでこの名前がついたそうな。個人的には、振ると鳴るのでつけられた名前かと思っていた。薺(なずな)ともいう。あまり立派な草ではない。空き家の庭とか、茅葺屋根に生えている感じ。寝ころべば…

津波(つなみ)

多くの人に3.11の思い出があることだろう。電車に乗っていて急停車し、線路を歩いて車道に出て、見れば2か所ほどで煙が上がっていた。帰宅してからの数日間はテレビに釘付けとなった。コマーシャルはなく金子みすずの詩が流れた。月末ごろ、東北道が走れるよ…

桃の花(もものはな)

今の季節、七十二侯では「桃始めて笑う」。笑うは「さく」とも読む。昔は花の咲くことを「笑う」といった。山笑う、とか。庭に桃の木があるが一度も実のなったことがない。木自体が甘いのだろう、虫のつきやすい樹木である。桃咲いて三歳の子の小弁当 林翔

蒲公英(たんぽぽ)

年中咲いているたんぽぽはセイヨウタンポポ。自家受粉だから受粉に昆虫が介在しない。カントウタンポポは春先に咲く。いまやカントウタンポポを見つけるのが困難なほどセイヨオタンポポが増えている。なにしろ受粉を昆虫に頼まないのだから増殖は比べ物にな…

麗らか(うららか)

好きな作家である内田百閒に『麗らかや』という本がある。内容のことでなく恐縮だが、学生の頃にこれが読めなかった。春の日差しののどかさを麗らか、という。うららかや最中の皮が上顎に 渡辺鮎太

菫(すみれ)

すみれの語源は墨入れ(墨壺)に由来しているという。しかし個人的には似ていると言われる墨入れのほうのイメージが湧かない。花言葉は、道端や草陰にひっそりと花を咲かせる姿が、控えめで奥ゆかしいことから、「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」。西洋でも誠…

鰆(さわら)

春の魚と書いて鰆。ほっそりした体形の魚で、狭い腹(さはら)が語源と言われている。刺身、焼物、煮物、吸い物にもいい。照り焼きや西京焼きもさっぱりとした味わいに。コレステロールを下げる効果があると聞いて、やはり日本酒の肴にしたい。鰆焼く味噌の…

春暖炉(はるだんろ)

もちろんこの季節になっても、寒い朝もある。寒くもないのに習慣でストーブのスイッチを入れてしまうこともある。ストーブの代わりに猫を膝に乗せていることもあるだろう。老い猫の肉球やはし春暖炉 秋川泉

木の芽吹く(このめふく)

この時期の雨を「木の芽起こし」という。一雨ごとに暖かくなり、窓から見える巨木の影がシャープでなくぼんやりと見える。芽吹いているのだろう。俳句の妙ともいえるのだが、いい俳句は季語を寿ぐのだそうだ。ガスの炎のひとつがつまり木々芽吹く 岡本眸

雛祭(ひなまつり)

スーパーで2月初めから流れていた歌。「あかりをつけましょ ぼんぼりに」。1番は5人ばやしの笛太鼓。2番はお嫁にいらしたねえさまに似ている官女。3番は右大臣の顔が白酒を飲んだのか赤い。4番は着物を着換えて自分も晴れ姿。どうしてこんなややこしい歌の紹…

蛤(はまぐり)

蛤の殻のかみ合わせは対のもの以外は合わないので、夫婦和合の象徴。慶事の食材といわれる。3月3日のひな祭りにも使われる。貝殻の内側に絵を描いて、貝合わせのゲームも行われる。子どもの頃、初めて蛤を採りに行ったとき、波の引くときに足元の砂が流れて…