季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

出水(でみず)

梅雨の終わるころには天候に関する季語が多い。雷や虹、そしてこの季語のように災害。 台風による出水もあって、この方は秋出水といって区別する。梅雨の頃の出水が句にも読まれるほどだから、昔から出水は多かったのだろう。しかし、温暖化など気象の影響か…

暑気払い(しょきばらい)

暑気を払うというよりも、なにかにかこつけて友を誘う。焼き鳥の煙にいぶされながら、それでも暑いなかで人心地がつく。あるいは、自宅で何か暑気を払うものはないかと家探しをして、忘れていた梅酒を見つけたりする。 一番多いのはやはりかこつけての呑み会…

風鈴(ふうりん)

材料はガラスであったり南部鉄であったり。その風鈴を聞かなくなった。我が家にもいくつかあるが、吊るすことはしなくなった。隣近所が近くなり、しかも気心が知れていないから、クレームを恐れる気持ちもある。 本来は自然の風を楽しむ、心の余裕から作られ…

夏蜜柑(なつみかん)

近年は手にしなくなったが、子どもの頃はよく食べた。みごとに酸っぱくって、身震いしたもの。口がへの字に曲がったり。 お茶の時間には、房ごと食べるのではなくて、房をむいたものに砂糖をつけて食べたものである。砂糖と言えばトマトも皮をむいて砂糖をつ…

昼寝(ひるね)

午睡ともいう。保育園では昼寝が日課に入っている。どのような効用があるのか企業でも認めているところがある。 昼寝で思いだすのは母のことである。この時期、田の雑草をとるために田んぼじゅうをはいずりまわる。むくんで手の甲が膨らんでいる。昼に上がっ…

夏氷(なつごおり)

夏氷、一般にいうのはかき氷でしょうか。夏の風物でしたが一時あまり見なくなりました。近年ブームのようです。スマホで撮ったりして、若い女性が楽しんでいるようです。インスタ映え。それを意識したかき氷を商品化しているお店も多いです。 もちろん、子ど…

晩夏(ばんか)

今年は梅雨が長引いているが、季語で言う晩夏は7月末。8月になれば早くも残暑となる。 晩夏には思いの複雑さがある。季節を惜しむ気持ちと、早く涼しくなってほしいと願う気持ち。さてどちらだろう。年齢が関係しているのかも知れない。それにしても、最近は…

心太(ところてん)

テングサを煮溶かして作った寒天質の食べ物を心太という。天突きと呼ばれる専用の器具で押し出して麺のようにする。奈良時代からこころてん、あるいはところてんと言われて食されたようだ。 以前誰かに、ところてんとかんてんの違いって分かるか、と質問され…

浮き人形(うきにんぎょう)

行水はお風呂の代わりではあったが、子どもにとってみればビニールのプールみたいに、遊び場であった。そこでの玩具が浮き人形というわけ。手で沈めても浮いてくる金魚やアヒル、人形など。塩化ビニールやセルロイドで作ったものが多かった。ブリキのものも…

白絣(しろがすり)

白絣とは、白地に藍や黒でかすり模様を表した織物のこと。とはいえ、絣(かすり)と紬(つむぎ)の違いも分からないほど織物からは縁遠くなってしまった。 母の縫ってくれた着物があるが、何十年と着ていない。縫ってくれたといえば、この季節には似合わない…

山清水(やましみず)

強い日差しのなかを歩いて、崖から湧き出ている清水に出会う。ご馳走ともいえる。思わず顔も洗って、涼を味わう。小石の上を流れていたり、苔の上を流れていたり。清水の景色もさまざまだ。 高校生の頃、童話を書いたことがある。流れている水のなかに光る小…

行水(ぎょうずい)

行水と言えば、塀囲いの庭ということになるだろう。湯を沸かして、風呂代わりに使う。脱いだ衣類やメガネなどにも風情がある。月や蝉の声なども。なんだか、どんなことでも句になりそう。裸だから、来客や塀の外の声も気になる。 近年はどこの家にも風呂があ…

外寝(そとね)

今のようにエアコンの普及していない時代の夏は寝苦しかった。蚊帳を吊ったり、縁側で寝たり。夜眠れないので、昼間木陰の縁台でうつらうつらするのも外寝といった。 15年ほど前、オーストラリアでアボリジニと生活したことがあった。夜はテントで寝ていたの…

松葉牡丹(まつばぼたん)

実家の、花壇というより花壇からはみ出て、松葉牡丹が咲いていた。強い日差しにもめげず、元気に。毎年、こぼれた種から発芽し、誰の世話にもならず花をつける。その松葉牡丹を最近見なくなった。たしかにおしゃれな花ではないが、色も鮮やかで、元気をくれ…

百日紅(さるすべり)

すべすべの幹から「さるすべり」というのだろう。実家のさるすべりは私が見てから60数年たっているが、樹木として成長した感じがしない。我が家も購入してから30年以上がたつが、その前から庭にあるさるすべりも成長の感じがない。そんな、成長の遅さが庭の…

茄子(なす)

インドが原産地といわれ、正倉院の書物にも書かれており、日本では奈良時代から栽培されていたという。古くから庶民の間に広まっていた野菜だけに、親しみがある。 20歳ごろ上京した私には、今でもスーパーで買うものではなくて、庭先に行って枝から直接もい…

胡瓜(きゅうり)

和名キュウリの呼称は、漢字で「黄瓜」(きうり)と書かれ、熟した実が黄色くなることに由来する、とある。大きくなると確かに黄色くなるが、熟したからと言って甘くなるわけでもない。青くて巨大な、野球のバットほどもあるキュウリもある。 子どもの頃の思…

団扇(うちわ)

暑い時にあおぐばかりではなかった。火起こしにも使う。虫を払うのにも使う。蠅や蚊を打つのにも使った。 暑い時にあおぐとしても、その場面、使う人によってもさまざま。自分にだけでなく、相手に風を送ることもある。人間関係のやさしさの道具でもあった。…

向日葵(ひまわり)

ひまわりの種を餌とする小鳥を飼ったことがある。思わずの不注意で死なせてしまって、大量の種だけが残った。庭に捨てておいたら芽が出て、数本のひまわりが咲いた。 大輪のひまわりだが、周辺の花びらひとつひとつが花なのである。中心には種ができる。その…

扇風機(せんぷうき)

ある時、電池かなにか買うのに電器屋に立ち寄った。店頭に扇風機が並んでいて、思わずどれも同じなのにどうしてこんなに種類が多いのか、質問してしまった。主人は我が意を得たりと、ひとつひとつ風を体験させてくれた。羽根の枚数などによって、たしかに来…

鬼灯市(ほおずきいち)

この時期、各地にほおずき市がたつ。なかでも浅草のほおずき市が有名だ。正式名称は「四万六千日・ほおずき市」。ほうずき市に行くと46000日お参りするのと同じ価値があるという。赤いほおずきが鮮やかだ。子どもの頃、丸いほおずきを口に含んで甘噛みして柔…

水中花(すいちゅうか)

子どもの頃、縁日で、野球のボールほどのガラス球に入った水中花を買ってもらった記憶がある。水中花は、夏祭りの風物のひとつだった。 造花なので、つぼみから咲く、あるいは咲き終わって散るということがないから、さびしい花ではある。そして、目立つよう…

花氷(はなごおり)

これまた絶滅季語だろう。エアコンのない時代の風物。デパートやホテルのロビーなどに氷柱が立てられていて、なかに造花がある。涼を呼ぶ。見て楽しむものだが、子どもは大目に見られて、触ったり頬をつけたりした。 氷に花を入れるのは、技術がいったのでは…

夏座敷(なつざしき)

絶滅危惧種の季語だと言われるが、個人的には好きな季語である。夏座敷といえば襖や障子をはずして、縁側、縁先の柱と柱の間に視界を遮るものを置かない。家のなかがガランとしている。あるとすれば、盆の時に祭壇をつくり、提灯にあかりがついているくらい…

月下美人(げっかびじん)

孔雀サボテンの花。夕方から夜に花をつけて、朝にはしぼんでしまう。この時期、鉢植えの月下美人が数年咲いたが、ある年の冬、庭に置きっぱなしにして枯らしてしまった。にょきにょきと伸びて、夕方花をつけたものだ。大ぶりの花だった。昨日、夕顔について…

夕顔(ゆうがお)

紛らわしいが、夕顔はアサガオやヒルガオとはまた違った種類で、どちらかというと瓢箪の仲間。長いのや丸いのなど大きな薄緑色の実をつけて、丸い実(マルユウガオ)からは干ぴょうを作る。さらに紛らわしいのは、冬瓜(とうがん)との違い。冬瓜は夏野菜だ…

道教え(みちおしえ)

道教えは斑猫(はんみょう)のこと。斑猫は緑色の美しい光沢をもつ甲虫で、道にいることが多い。人が近寄ると、飛んで数歩先に下りて振返り、人を見るような様子をする。また近寄ると、同じ動作を繰り返す。まるで道を教えているようなので、「道おしえ・道…

箒木(ははきぎ・ほうきぎ)

箒草ともいう。こんもりした若草色で、一度庭に植えると毎年庭に芽を出す。秋口、色が変わって、その色も楽しめる。そんな畑を作って観光地にしているところもあった。そうそう、今ではコキアの方が分かりやすいか。あの丸みに手足をつけたら、アニメにでも…

豆飯(まめめし)

豆飯とは、えんどう豆・大豆などを炊き込んだ飯。豆ごはんのこと。ご飯のかおりと豆の香りがして、なんともいえない。とくにこの季節、豆のかおりは涼やかな感じさえする。ただ、子どもの頃はどうだったのだろう。芋やカボチャなどはあまり好きではなかった…

茗荷の子(みょうがのこ)

茗荷を食べると物忘れになる、という言い伝えがある。仏教説話からで、自分の名前も忘れてしまう弟子がいた。そこで自分の名前を書いて背負って歩いた。弟子たちに物笑いにされたが、釈迦の教えに忠実で、悟りの域に達したという。死後、その弟子の墓に名の…