季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

熱燗(あつかん)

日本酒と言えば神楽坂の伊勢藤を思いだす。坂を上り切ったあたりを右に折れると石畳。水が打ってあって、縄のれんをくぐって店に入ると、あなた呑んでいませんか、と疑われる。小声でしか話せない店である。疑われたり、話し声が大きいと注意されても通ったものだ。
代は変わってしまったが、昔はいろりでおばあちゃんが燗に触った指を何度も耳たぶにもっていって温度を確かめる。だから、熱燗ではない。とろっとしたような日本酒の味わいである。
最近は吟醸酒とか味にこだわって冷で呑むことが多くなったが、この季節は燗酒にしたいものだ。腰のしっかりした、味の壊れない酒が燗にはいい。
熱燗し妻をしまひの湯にゆかす 木津柳芽