季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

糸蜻蛉(いととんぼ)

トンボは秋の季語。糸蜻蛉だけが例外的に夏の季語である。行燈の燈心に似ていることから燈心蜻蛉ともいう。糸蜻蛉とは種類が違うが、ハグロトンボという黒い蜻蛉もいた。
子どものころ、早朝や夕刻、裏庭に出てみることがあった。椎や杉や雑木が生えていて夏でも薄暗い。早朝にはセミが脱皮していたりする。夕暮れには糸蜻蛉がか弱げに飛んでいたりする。日差しの強いところの昆虫とはまた違った世界で、その静けさもいいものだった。
下の句、魂棚とはお盆のときにつくる棚のことで、位牌や供え物を安置する。精霊棚とかお盆棚ともいう。薄暗いところをゆっくり飛ぶ糸蜻蛉は確かにだれか、親しい人の生まれ変わりのように感じることがある。
糸とんぼ魂棚をとぶ誰ならむ 飴山實