季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

代掻き(しろかき)

機械化されるまでの代掻きは重労働だった。どこの農家にも牛がいるわけではなくて、牛のいない農家はそれこそ牛のようにはいずりまわって田んぼを平らにする。獣のような労働が、しかし豊作を思いながらだと嬉しかったりする。
暮れ泥む(くれなずむ)頃、田んぼに水が張られ、ないだ海のように水面が広がる。潮の香りこそしないが、確実に近づく夏の匂いがあって、それは父の汗のようなにおいでもあった。
代掻くや水につまづくまで疲れ 成嶋瓢雨
代掻いて夜は獣の鼾せり 山口伸