季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

乗っ込み鮒(のっこみぶな)

水が温むころは鮒が産卵のために浅いところにやってくる。釣り好きにはたまらないだろう。
ところが、私が子どもだった頃は、梅雨時に乗っ込み鮒がやってくる。釣るのではなく網ですくうのである。だから、乗っ込み鮒は一般に春の季語だが、私にとっては初夏の思い出である。
田植えも終えて青々とした田んぼには、たまった水を逃がす小川がある。水の豊かなその小川に、大きな鮒が登ってくる。だから、雨がやむとそわそわする。というより、やむのと同時にバケツと網をもって飛び出したものである。
30センチを超えるような鮒がとれた。産卵にやってくるわけだから元気がいい。小川に入って網を動かしていると、そういう鮒が足にぶつかる。
日差しが戻って、田んぼの水が澄むと、勢い余った大きな鮒が田んぼにいたりする。そういうなかに、50センチを超える雷魚がいたりする。それをうまく捕まえられた時の胸の高鳴りはたとえようがない。家に帰って、たらいに雷魚をはなすと、半分消化したドジョウを吐き出したりする。
夜焚火や乗込む頃の鮒釣場 根岸善雄