季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

早苗饗(さなぶり)

早苗饗は田植えを終えた後の宴のこと。いまは機械であっという間に田植えが済んでしまうが、昔は村を挙げての労働だった。母は隣近所の田植えに行って、自分の家の田植えにもやはり来てもらう。どういうわけかそれは女たちの労働の貸し借りで、男たちはそれに参加しない。自分の家の田植えでも、男は苗を田に投げるくらいで、忍耐のいる田植え労働にはあまり関わらなかった。子どもの頃、それを見ていて不思議に思った。
「さ」は桜のときにも書いたが、穀物の神のこと。早苗饗はやってきた穀物の神に感謝して帰ってもらう儀式でもあった。労働に寄与した人だけでなく、みんなで祝うものだった。だから餅をついて、牡丹餅を作る。酒をのむ。子どもたちも加わる。
早苗を植え終わっての饗宴だからさなぶりという説もあるが、神が昇っていくのでさのぼりからきているとの説もある。私の姉の名前は早苗だが、日本の女性にさおりというのも多い。田植えはじめのことを言うが、田の神が降りてきたこというのだろう。
手伝はぬ娘も早苗饗の輪に入りぬ 吉田きよ子