季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

海鼠腸(このわた)

この季節、燗酒に海鼠腸はたまらない。ぬるま湯みたいな燗酒と言えば神楽坂の伊勢籐。40年も前、おばあちゃんが囲炉裏の前に小さく座って、燗酒の温度管理をしていて、なんども自分の耳たぶに指をあてて温度をみる。確かにいつも人肌燗で、温度も同じくらい。そのおばあちゃんが亡くなると息子さんがそこの場を仕切るようになる。怖そうな面構えだったが、数年して亡くなったのか孫が店を切りまわしている。

息子さんが仕切るようになったとき、早めにお邪魔すると、近くの空き店舗でひとり海鼠腸を抜いていた。どういうわけかそこに行って、呑みながら長時間眺めていたのを思い出す。

どれかひとつはこのわたの握り飯 茨木和生