季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

夏暖簾(なつのれん)

店の前にかかる暖簾は「営業していますよ」という情報。店の格式や信用を表すようになっていった。商人にとって、武士の刀のようなもの。ちなみに職人にとっては半纏(はんてん)がそれにあたる。
戦後まもなく、屋台などで食べた後、暖簾で手を拭くようなこともあって、汚れている暖簾ほど繁盛の印とする文化が生まれて、汚い暖簾をかけている店もある。
また暖簾には、店内が露骨に覗けないような機能もある。そういうものとしては風呂の前にかかる「男湯」「女湯」がある。時間によって架け替えたり、やはり一つの情報として機能している。
昔は暖簾以外に、夏に用いるものを涼簾と言ったらしい。涼簾とは言わなくなって夏暖簾というようになった。涼しい麻の生地で作ったりしている。真ん中を上にかけてあって、かき分けなくても入れるようにしてある店もある。
暖簾のルーツを考えると、しめ縄なのではないかと思えてくる。聖なる領域と俗なる領域を区別するもの。そういうものとして調理場にかける店もある。一般の家庭でも勝手口に暖簾をかける家がある。気づかないうちに結界を作っているのかも知れない。意外に奥が深い。
おしぼりの袋のぽんと夏暖簾 赤尾恵以