季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

蚯蚓鳴く(みみずなく)

夕方、一斉に虫たちの鳴く季節がやってきた。虫たちの鳴き声のなかに、ジーと耳鳴りのように鳴いている虫がいる。それを昔の人は蚯蚓鳴くと表現し、秋の季語にもなっている。実は螻蛄(おけら)の鳴き声だというが、螻蛄も今どきに見ない。言葉として、オケラ街道が残っている程度か。競馬場と駅までの間にそんなふうに呼ばれる道がある。すっからかんになって、タクシー代もない人がとぼとぼ歩く。みぐるみ剥がされて歩く姿がオケラにでも似ているのだろうか。そんな通りには、焼き鳥屋などが並ぶ。調べてみたら、正面から見たオケラは万歳ているようなので、そうした名前がついたらしい。

子どもの頃、ジーと鳴く声はたい肥のなかから聞こえてきたように思う。ミミズが鳴く土はいい土なんだ、と隣の爺さんに聞いたような記憶もある。声を発する機関もないし、羽をすり合わせようにも羽もない。ミミズが鳴くなんて誰が考えたのやら。

飯盗む狐か蚯蚓鳴き止みぬ 羅蘇山人