季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

螻蛄(けら)

イメージはずいぶん違うのだがバッタの仲間なのだという。
螻蛄といえば、虫けらを思いだす。しかしこの場合のけらは螻蛄のけらとは違うようだ。「とるにたりないもの」をけらというらしい。
また螻蛄のことをオケラという。おけらといえばこの螻蛄のこと以外に、お金のない状態をいう。ギャンブルなどですっからかんになること。こちらは、この螻蛄が両手を挙げた状態に見えるのでいうようになったとか。
子どもの頃、まだ暑いとはいえない日差しのなか、腰をおろして田んぼの隅の水の流れに手を入れていると、螻蛄を捕まえることができた。掌にのせていると、指の間をこじ開けて逃げようとする。くすぐったい。
ふつうの魚とは違っていかめしいとも思える虫なのだが、不思議に怖い感じはない。刺されるという危険さを感じない虫で、むしろかわいいという感じだ。水をはじく体で、泥に潜っていく。動きに一生懸命さがあるのがいじらしい。
意外に環境の変化に弱い生き物だったのだろう。最近では見ることも触れることもなくなった。最近の子どもたちには分からない虫になってしまったのではないか。
ひたすらに生きむと螻蛄の泥まみれ 成瀬桜桃子