季語 日めくりエッセイ

木ノ内博道 俳句の季語に触発された日々の想い

冬ざれ(ふゆざれ)

冬ざるる、と句にすることもある。特定のなにか、ではなくて、万象の荒涼たるさまをいう。便利な季語のようだが、なかなか句にしにくい。 冬ざれの道に拾ひぬ空ラ財布 高橋淡路女

火吹竹(ひふきだけ)

火に近い方の節だけのこして、きりで穴をあける。それだけの代物だが、火が消えそうなとき役に立つ。火を起こすのはそれなりに苦労がいった。お面でひょっとこがあるが、火男から来ている。 ま青なる火吹竹あり初竃 藤田美乗

雑炊(ぞうすい)

子どもの頃は確かおじやと言った。調べてみたら江戸言葉だという。じやじや煮えるところからおじやと言ったとのこと。雑炊は京阪の言葉らしい。貧しい人の食べ物と思っていたが貴族の社会にもあって、水雑炊は二日酔いの時など粋な食べ物だったという。 雑炊…

燻炭(いぶりすみ)

焼きの不完全な炭のこと。座敷で火鉢などに使うと涙が出る。安い炭にありがちだが、そんなことから思うのは、ご飯を炊いた熾きを消し壷に入れたり、2次、3次利用するから燻り炭はありがちだった。 いぶり炭三和土に出して憎みけり 山口波津女

火鉢(ひばち)

家のなかで暖をとるものといえば炬燵と火鉢か。炬燵の方はいまでも使われているが、火鉢は使われなくなった。火鉢は水槽代わりに使われ、メダカなどが飼われている。 子どもの頃、我が家にも火鉢があって、けっこう暖かかった。火箸で炭を足したり、寝るとき…

寝酒(ねざけ)

寒くて寝つけない時に飲むのが寝酒である。冬の季語。年中飲んでいると季語にはならない。 やや熱きことが肴の寝酒かな 鷹羽狩行

古日記(ふるにっき)

年末を迎える時期になると、日記や暦に関する季語が多くなる。古日記や古暦。一方、日記買う、暦買うと言った季語もある。 私の青春時代には、手帳やカレンダーが多く集まったものだ。だが、気に入ったものは少なく、やはり長く使うものなら自分で買った方が…

嚏(くさめ)

くさめ、くしゃみともいう。徒然草にも出てくるというから古い言葉なのだろう。くしゃみをすると、誰か噂をしているとよくいう。くしゃみには昔も、あるいは海外でもまじないの言葉がある。アメリカだと、くしゃみをすると「祝福あれ」と言われる。日本では…

煤籠(すすごもり)

煤籠ないし煤逃げという。年末の煤掃きの日に、直接煤掃きに関わらない老人や子ども、病人などを別室に避けさせること。近い間柄の家に行かせている場合もあって、これは煤逃げ。 私の場合は子どもの頃、友達の家に遊びに行っていた。用を言いつけられるのを…

朽葉(くちば)

朽ちた枯れ葉のことだが、水底にあったり、枯れ葉の重なりの下の方だったり、あるところによってさまざまだ。山田の清水の湧いていそうなところでは、枯れ葉がなかなか朽ちないで、インクのように黒かったりする。 池の朽葉のあるところで小魚を釣った思い出…

納豆汁(なっとうじる)

納豆も冬の季語である。私のふるさとでは冬になると納豆を作る。堆肥の上が熱くなっていて、筵でくるんだ豆を納豆にするのにちょうどいい。 大量に作るから余る。それらは切り干し大根とまぜて、天日にさらす。糸の引かない納豆もいいものだった。 さて納豆…

ポインセチア(ぽいんせちあ)

12月になると商店街にポインセチアが出回る。クリスマスフラワーとも呼ばれている。和名はショウジョウボク(猩々木)。能などに登場する、大酒飲みで顔の赤い伝説上の動物(人物?)。 この時期に買ってきて、庭に置き忘れたりすると一晩でダメになってしま…

冬ざれ(ふゆざれ)

ひと頃、枯れ葉が趣を誘ったものだが、冬も一段と深まって近所の柿の木も枯れ木を偽装している。幾たびも偽装を繰り返して、齢を重ねていく。 野ブドウの蔓を残して冬ざるる 浦野芙美

年の暮れ(としのくれ)

一茶のこの句は有名。あなたまかせのあなたはどなたなのやら。神様や仏様かも知れないが、あんがい近所に住む若い女性かも知れない。 いずれにしても、自分だけでこの年の暮れまでこぎつけたわけではない。 ともかくもあなたまかせの年の暮 小林一茶

十二月(じゅうにがつ)

早くも年の暮れ、今年もいろいろとあった。そういうなかで、忌日がある。まさか、と思うような若い人が亡くなった。 十二月心に留む忌日あり 小島阿具里

蜜柑(みかん)

地球温暖化のせいか東京近郊でも本格的なみかんがなる。炬燵に置いておくと、何となく手が伸びて、みかんを食べている。 ミカンの生っている木々を見るのもいい。日暮れ時、灯りのようである。多くは丘の上で、遠くに海が見える。 妻と子の話の外や蜜柑剥く …

水仙(すいせん)

水仙の緑が目につく季節になった。陽だまりの水仙の、少し色の薄いのが莟。 毎年のように報道されるのが、韮と間違えて食べた、というもの。可憐な花だが、食中毒を起こす。 水仙のふつとよこむく莟かな 高橋淡路女

葛湯(くずゆ)

百姓家で葛湯など飲むことはないのかも知れない。我が家の座敷には疎開してからずっと住み続けていた大叔父と、結婚はしていないのだが女性が住んでいた。東京で働いていたせいか、新しい文化を持ち込んでいて、村ではどこもとっていない日本経済新聞をとっ…

日向ぼこ(ひなたぼこ)

ひなたの恋しい季節になってきた。 子どもの頃、家族が縁側に集まって、日向ぼっこをしたものである(日向ぼこ、日向ぼっこ、どちらなんだろう)。庭の霜が溶けて、ぬかるみになる。郵便配達の人がバイクで来ても、手こずっている。母が白髪を抜いてくれ、と…

初氷(はつごおり)

毎年、いつが初氷だろうと考えてしまう。ぼんやりと生きている証拠だろう。 そこにいくと、子どもの方がしっかりしている。初めての氷を見つけて、小物を入れる箱にしまおうとしている。また、それを見ている小林一茶の目がやさしい。 をさな子や文庫に仕舞…

霜柱(しもばしら)

まだ霜柱ができるほどの寒さではないが、季語を思ううちに、想像の霜柱に出会う。そういう季語に喚起される風景というものもいい。 子どもの頃の通学。霜柱を踏み踏み、友達の家を回って学校へと急ぐ。水たまりにはった薄氷を踏むのも楽しかった。凍った田ん…

侘助(わびすけ)

侘助はツバキの一品種。花は一重で小さく、半開きに咲き、白・桃・紅色などがある。茶人に好まれ、茶花や庭木とされる。 それにしても、ツバキの名称とは思えない。テレビの影響か犬の名前かと思った。 佗助やちちの紬をははが着て 塩谷はつ枝

雪野(ゆきの)

関東で生まれ育っていると、雪野はそんなに実感のある景色ではない。しかし、あの何ものも隠して白一色。そうなると、一筋の川とか、景色が単純化される。 下の句、扇の景色のような味わいがある。 ワイパーの一掃き丸し雪景色 富樫風花

鼬(いたち)

子どもの頃、鼬がいた。と言っても「あっ鼬」という間にいなくなっている。一瞬庭を横切るだけ。ところが、鼬がやった、というような跡を見ることはよくあった。鶏小屋で鶏が死んでいたものである。 小学校に入るようになって、鼬のはく製を見た。胴長で、牙…

障子(しょうじ)

障子は冬の季語。もともとは光を取り入れ寒さをしのぐものだったので冬の季語になっているらしい。 庭に籠を伏せ、それを棒で支え、棒を糸で結わえて、その糸を障子越しに部屋のなかで握る。籠のなかには餌になるものを撒いておく。庭を見ながら小鳥が籠に入…

鰭酒(ひれざけ)

あぶった河豚の鰭に熱燗を注いだもの。蓋をして、その後火をつけてアルコールを飛ばした。焦げた鰭のせいか、酒が甘くなり、また熱燗のせいもあって身体が温まる。 鰭の代わりに刺身をひと切れ入れるのを身酒というらしいが味わったことがない。身酒も冬の季…

海鼠腸(このわた)

この季節、燗酒に海鼠腸はたまらない。ぬるま湯みたいな燗酒と言えば神楽坂の伊勢籐。40年も前、おばあちゃんが囲炉裏の前に小さく座って、燗酒の温度管理をしていて、なんども自分の耳たぶに指をあてて温度をみる。確かにいつも人肌燗で、温度も同じくらい…

セーター(せーたー)

昔の衣類はボタンがとれたり糸がほつれたりしたものだ。とくに子どもは相撲をとったり木に登ったり、衣類の破れには頓着しなかった。滑り台ではお尻が擦り切れた。 お年頃の女性の衣類でも同じだったろう。乱暴に衣類を扱わなくても穴があく。ちょうどブロー…

炬燵(こたつ)

子どもの頃は、朝起きるとトイレに行って、それから火を入れた炬燵にまたもぐりこむ。ご飯を炊いたあとの残り火で作った炬燵だから、布団も焼けるように熱い。 小言を言われながら家族全員で朝ご飯。父だけが胡坐で、後のみんなは正座。そういう一日の始まり…

凍瀧(いてだき)

凍瀧と同じような季語で冬の瀧というのもある。 高校生の頃か、冬に袋田の滝を見たことがあって、みごとに凍り付いていた。 いまはダムになってしまったが、竜神峡の沢歩きもした。冬は氷の上を歩く。今よりもずっと寒かったのだろう、立派に凍っていた。亀…